読書ノート『ロンドン散策 ──ある冒険』より

どうも眼には変わった属性があって、綺麗なものだけを見ようとするみたい。まるで蝶のように色彩を探し、そのぬくもりに浸ろうとするみたい。

自然がいっぱい磨き立て飾り立てたこんな冬の夜は、まるで地球全体が宝石でできているみたいに、眼はエメラルドや珊瑚の小さな塊を折り取り、最高に可愛らしい戦利品を集めてくる。

でも、たくさんの戦利品から思いがけないところを引き出したり組み合わせたりすることは、眼には(ごくふつうのアマチュアの眼には)できない相談。

そういうわけで、純粋で添加物なしの美というこの素朴な砂糖菓子をひとしきり頬張ると、わたしたちはもうお腹いっぱい、という気分になる。

キラキラした街路の魅力には背を向け、靴店の入り口で足を止め、本当の理由とはおよそ関係ない言いわけをしながら存在の暗い小部屋に引きこもろうとする。

促されるままに試着台に左足を載せながら、私たちは自問する ───「ねえ、小びとでいるって、どんなことなんだろう?」

 

『ロンドン散策 ──ある冒険』ヴァージニア・ウルフ

“Street Haunting──A London Adventure”(Virginia Woolf,1882-1941)

 

 

 

 

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